蝶と存在と言葉

 

存在しないから言葉がある
何もかもが幻想に過ぎない
私すら存在しない
この世界に佇む私などいない
世界すらない
青い空などない
海に囲まれた大地などない
中の人などいない

私は名もなきバクテリアのようなものに過ぎず
暗黒の宙の底に 蠢く寄生虫と変わらない
敢えてそう想い 世界に佇めば
なんだか新しい世界が 暗黒の
絶望にも似た喜びを 運んでくる

存在しないから言葉がある
存在しないからこそ 言葉を生む必要があった

もはや言葉があるから存在する
全ては言葉から生まれる
青い空が生まれ
白い雲が生まれ
世界が動き始めて
私が生まれる

言葉が 私の見る世界を 生々しくする
ただの触手にすぎぬ この手さえも甘美なまでに 全てを
嗚呼 美しく舞う蝶よ
言葉を持たぬ お前には 世界はどう見える

その眼で ありのままの世界を視ると
太陽のまぶしい光さえもが
仄暗い闇の中に消えてゆきそうだ

それでいて眩い美しさを同時に感じる
そこで初めて気がついた
今まで世界の半分も見えてなかったことに

だから私は時々 その眼が欲しくなる
だから私は時々 言葉が疎ましい
言葉は 蝶をとらえることができない
それでも言葉を 手放すまい
私はもう 言葉としてしか存在しないから

-200810-