※読み方
早桐(さぎり)
保澄(ほずみ)
明祀(あかし)
とてとてと小走りで近付いて来る人気がした。たぶん保澄だろうと思って、振り返ることはしなかった。
「さーぎりちゃんっ!」
予想通りの声が私の名を呼び、後方から勢いよくとびついて来た。
「なに」
つい素っ気なく返してしまう。溜息が出た。
これだから人に会いたくなかったんだと、保澄に過失はないのだが内心で責める。
「んもうっ! 元気ないぞー。また明祀殿となんかあったのー?」
「うっさい!」
自分でも驚くほど鋭い声音だった。
保澄が悪いわけではない。
『明祀』という単語に過剰反応してしまったことに自己嫌悪して、私は嘆息した。
「ごめん」
保澄はにっこりした。そして私の隣に腰を下ろした。
「なんかあった?」
それは優しさで出来た問い。私の中にすっと染み入って、無性に泣きたい気になった。
こんなとき、いつも三つ年下の少女に助けられる。大人気ないと自嘲しつつも、頼ってしまう。
保澄が優しすぎるせいだよなぁと思うのは、責任転嫁だろうか。
「保澄」
「なーに?」
「ありがと」
保澄は一つ瞬くと、笑った。咲った。
「うんっ!」
本当に救われるんだ。彼女の笑顔と言葉、その存在に。
きみが居てくれるから
(「ありがとう」なんて言葉じゃ全然たりない。この気持ちは、どんなふうに伝えればいいのかな。)