ひゅんっと冷たい風が吹き抜けて、さえはきゅっと口を結び小さく肩を震わせた。
「これ、着てなよ」
「……いらない」
 さえの肩に自分の羽織りをかけようとした手を止めて、光久は手持ち無沙汰になったそれを自分に戻すわけでもなく、手に持ったままで歩き続けた。
 この寒空の下を歩くにあたって光久の行為は至極有り難かったし、平生なら素直に受け入れただろう。しかし、今日に限ってそうはいかないのだった。それはさえのちょっとした意地だった。
「……おかしいわ。絶対おかしい!」
「まだ言ってるの?」
「だって、私はみつより年上なのよ! お姉さんなのよ!」
「そんなこと言ったってお祖母様が決めたことだし」
「私が今日のためにどれだけお祖母様に媚びう……、尽くしてきたと思ってるのよ!」
「こらこら、姉さん」
「あー、お祖母様は私がお嫌いなのかしら!」
 そう言って心底悲愴な溜息を吐くものだから、光久は苦笑した。その溜息が果たして嫌われているという疑念への憂えだとは到底思えなかったからだ。
「またそんな大袈裟な。そんなわけないだろ」
 前方を向いたまま返答した光久がちらりとさえを見やると、きっと睨み返された。
「光久はずるいわ!」
 言いながら着物の袂をぐいぐいと引っ張ってくるさえの頭をなだめるように二つ撫でて、光久は少しの間思案するように空を仰いだ。そして仕方ないと息を吐く。
「姉さんが欲しがってた藤田屋の簪を買おう。それでどう?」
「え、本当に! いいの?」
 さえはその提案にすぐさま顔色を変え、ぴょんぴょん跳ねながら黄色い声を上げた。しかし、はたと止まると訝しげに光久を見上げた。
「でも結構高いわよ?」
「藤田屋の番頭とは知り合いだからね。多少の口利きはできるさ」
 光久の返答に、ぱあっとさえの顔が明るくなった。
「嬉しい! あの簪ずっと欲しかったのよ!」
 光久は上機嫌のさえを見つめながら、つくづく姉に甘いな、と己自身に苦笑が漏れた。
「このまま買いに行く?」
「もちろん!」
 嬉々として足早に歩を進め出したさえに、光久は手に持ったままだった羽織りをかけてやった。今度は何も言わずにその行為を受け取ったさえは、にこりとしてそれにくるまった。






御年玉

(でも、やっぱりどう考えてもおかしいわ!)(弟の光久と私の御年玉の額が同じだなんて!)
(……姉さんったら。)