声の主が誰であるかは一瞬にして理解してしまったけれど、呼び止められた理由を探し当てるまでに私は相当混乱したし、それを取り繕うのに神経をすり減らした。
「おい」
「あ、うんッ……ごめんね、ありがと!」
彼が拾ってくれたプリントをそそくさと受け取りながら、私はさっと視線だけで彼を見た。
愛おしくて大切な、今はもうとても遠いひと。
一瞬出かかった彼の名を、私ははっとして飲み込んだ。無意識に行動を制限してしまうのは、彼を避けることに慣れてしまった私の癖のようなものだった。そんな自分に悲しくなることは、今はもうなかった。仕方のないことだと思った。
二人の間にながれる微妙な沈黙に耐えられなくなった私は、早くこの場を立ち去りたくて、最後にもう一度「ありがとう」とお礼を言おうと思って顔を上げた。そこには、真っ直ぐ私を見据えている彼がいた。どくん、とひとつ鼓動が大きく波打った。私は持っていたプリントをぎゅっと握りしめた。
彼が私の名を呼んだ。それは鋭く突き刺さったかと思うと、ゆっくりと私の中で反響した。
何も言えずにうつむく私の体は、鎖で雁字搦めにされたように動かなかった。
囚われて
(未だに解放されない。)
(早く断ち切ってしまいたいのに、その術が見つからないの。)