「ねえ、」
彼女はさらに眉間を深く寄せて、催促するように言った。いらだたし気に吐かれた溜め息が私を責める。
「ほーら、もう十七時だよ」
閉口したままうつむいている私の頭に触れた手は乱暴で、けれど私の髪をすく彼女の指はとても優しかった。
「泣くなら強がるのやめな」
「……つよがってないっ」
「それが強がりだってーのよ」
彼女の優しさが私を泣かせることを、きっと彼女はわかっていない。
もう、と彼女は面倒くさそうに頬杖をついて、窓の外に視線をやった。
陽が傾いて、橙に染まり始めた空の色が薄暗い教室に差し込んで、床は机や椅子の影で暗く染まっている。
彼女と私の影は、他の影に混じって形を失っていた。
「強がりってさ、最初はただの強がりでも、ずっとそうしてると強がってんのが普通になっちゃうんだよ」
「うん」
「それって、なんか悲しくない?」
「うん」
「そろそろ帰る?」
「うん」
鞄を持って立ち上がった彼女を追って、私も教室を出た。
実際の身長よりもいくらか長く形作られた彼女と私の影が、廊下を暗く染めていた。
強がり
(強がってないと、どうしようもないときだってあるんだよ)